編集という概念(その1)
出版業や広告業に携わっていない方には、紙媒体というか文字媒体の「編集」というのがいまいちピンと来ないと思います。
テレビや映画などの映像媒体の編集とは、別々に撮影した映像をうまくつなぎ合わせ、(意図的に)面白く魅力的に、あたかもそうであるように伝えることですが、文字媒体の編集は少々異なります。
たとえば、新しくオープンする飲食店のチラシを作成するとします。店にお客さんを呼び込むチラシを作るには、どんな層に対して何をウリにするのかというマーケティング戦略が必要不可欠。たとえば、若い男性に対してボリュームと安さを訴求する。若い女性に対して低カロリーなのにおいしい料理とオシャレな空間を訴求する。カップルに対してムードある雰囲気を訴求する。など。
マーケティング戦略、いわばチラシを作るうえでの指針に対して、どんな内容、どんな展開をすればいいか、チラシに青写真を描くのが編集で、それを行うのが編集者(雑誌や書籍において)やクリエイティブ・ディレクター(広告において)です。
ライターは編集者の指示に基づいて、コピー(文章)や原稿を書きます。雑誌の誌面やHPのページ作成も考え方は同じです。
本(書籍)の場合も同じ。たとえば、「組織のリーダーシップ」をテーマ(題材)にした本はいくつも出版されていますが、それぞれ編集内容が異なります。
たとえば、心理学的に人の心理を、図解を交えて解説し、テクニックとして習得する内容の本もあれば、歴史上の人物にスポットをあて、エピソードを紹介しながら「正直」「思いやり」の精神こそがリーダーには最も大事と結論づける人生哲学的な内容の本もあります。そのような内容の本をつくるには、どんな材料(文章、図表、写真)が必要かを考え、本の青写真を作成し、ライターやデザイナーに指示して本を作っていくのが編集者の役割です。建築でいうと編集者は建築設計士兼現場監督にあたり、ライターやデザイナーは実際に建物を建てる大工にあたります。
広告制作会社や、ライターなどのクリエーターにチラシやパンフレット、HPの作成を依頼したことがないところは、「編集」という概念がなく、ライターにチラシ、パンフレット、HPのコピー作成を依頼しようとします。それは、設計図なしに大工に家を建てろと言うようなものです。(関西ライター名鑑トップページの動画参照)
広告制作会社やクリエーターに依頼せずに、自社の社員が作ったであろうチラシやパンフレット、HP、広報誌をよく見かけます。そういったものは編集がうまくされていないので、文章の上手い下手に関係なく情報が読者の頭に入って来ません。それは、緻密に計算された設計図なしに、思いつきで構成、文筆されたものだからです。
チラシ、パンフレット、HP、雑誌、本などの文字(情報)媒体において「編集」というものがとても大切にも関わらず、そのことを知らずに「編集」の概念のないまま作られた文字媒体が世の中に溢れているということをご理解いただければ幸いです。